2009年08月04日

The Other Side of Jobim

barquinho ヒガシノリュウイチロウ http://barquinho.biz/

Antnio+Carlos+Jobim.jpg

 「いかにしてボサノヴァ/ブラジル音楽にたどりついたか」シリーズ、今回はやはりこの人のことは避けて通れないアントニオ・カルロス・ジョビンかな。全く脈絡ないけど…。

 ジョビンについては一家言持つ人が多く、いろんなところでその素晴らしさについて語られていて、今さら僕などが解説することは少ないので個人的・主観的なことを書いてみます。

 最初に結論を言ってしまえば、ジョビンがいなければ僕はブラジル音楽を聴いていなかったと思います。ジョビンのモダンなコード進行による数々のボサノヴァ・スタンダードを聴いたからこそ、その圧倒的な独自性に興味を持ち、「ブラジル音楽ってすごい」と感じてその他のブラジル音楽にもはまっていったのです。ボサノヴァやMPBには、ジョビンが作った曲でなくともジョビンの影響があったからこそ生まれた名曲も少なくないでしょう。ホベルト・メネスカルの転調を多用した作風も明らかにジョビンの影響だと思うし、MPB世代の音楽も、ジョビンがいたからこそ生まれ得たものなのではないでしょうか。

 あと、ビートルズ以降のロックを中心に音楽を聴いてきた人間にとって、やはり“自作自演アーティスト”というのは親近感があるし、感情移入しやすいですね。ジョビンは中期以降自分で歌詞も書いていて、ナイーヴな感性を表現した歌詞を書いているし、それを自分で歌った録音も残っている。そんなところも魅力的です。「リージア」や「ヴォセ・ヴァイ・ヴェール」といった曲からは“天才作曲家”の人間くさい一面を垣間見ることができます。ジョアン・ジルベルトの演奏はもちろん比類なく素晴らしいものだけど、自分の感情を吐露するようなことはあまり無いので、そういう意味でもジョビンには親近感を持ちやすいのかもしれません。

 さて、世の中にはジョビンの作品を扱った作品は星の数ほどありますが、本人の演奏・作品のなかではどれが好みかと問われるなら、僕は1973年の『マチタ・ペレ』、1975年の『ウルブ』のあたりが今は好きかな。どちらもクラウス・オガーマンの壮大なオーケストレーションが大きな位置を占めているけど、クールで甘すぎない良い仕事をしています。耳タコと化した有名曲がほとんど入っていないところも良い。そしてこの2作品は独特のダーク感というか、ダウナーな雰囲気を持っているところも好み。

 『ウルブ』を初めて聴いた時のことをいまだに印象強く覚えています。もう15年以上前だと思うけど、京都まで車で買い物に行って(当時は大阪府に住んでいた)当時ブラジリアン・ディスクがバリバリ最強だったヴァージン・メガストア河原町店で『ウルブ』を購入。夕暮れ差し掛かる鴨川沿いの道路を帰路につきながら買ったばかりのディスクをカーステレオに突っ込み1曲目の「ボト」が流れてきた時、車内の温度が1〜2度下がった気がしました。「イパネマの娘」や「ジェット機のサンバ」のジョビンの印象とは全く違うダークな感触に驚いたのですね。ビリンバウの乾いた音、不穏なベースライン、エレピの不協和音、そしてジョビンとミウシャの緊張感のあるデュエット、そして壮大なオーケストレーション。そこにはボサノヴァ的な感触は全く無いけれど、ジョビンにしか作り得ない高密度なブラジル音楽がありました。そして続くスローなアレンジの「リージア」の美しいこと。ジョビンが『ウェイヴ』あたりまでのいわゆるスタンダード・ボサの作曲家で終わっていても、もちろんその世界的地位は揺るぎなかったはずですが、『ウルブ』や『マチタ・ペレ』のような、単に聴きやすいだけじゃないパーソナルな作品があるから、僕はボサノヴァというジャンルを越えてジョビンというアーティストを愛しているのでしょう。

 最後にやっぱりギターのことを書くと、ジョアン・ジルベルトやバーデン・パウエルのようにあまり話題にならないけれど、ジョビンもまた独特の個性を持ったギターの名手だと思います。ジョアンのギターはぶれることのない右手親指の2ビートの上で、高音部がサンバのアクセントを黙々と刻み続ける、あくまでも弾き語りの伴奏に特化したものだし、バーデンのギターは鋭いアタックを武器にパーカッシヴにギターをドライヴさせるものですが、ジョビンはその中間といったところでしょうか。バーデンほどではないにしろ、ジョビンのギターはパーカッシヴで、ジョアンの弾き語り伴奏型よりも自由にリズムを刻み、アクセントが多いです。これはやはりアレンジャー的発想からくるボサノヴァ・ギターのとらえ方だと思うし、アンサンブルの中に入るととてもかっこいいです。彼自身のアルバム『ウェイヴ』や、アストラッド・ジルベルトのファースト『ジ・アストラッド・ジルベルト・アルバム』のギターにぜひ耳を傾けてください。もしかして無意識に聴いてきたこのジョビンのギターが、ボサ・ギターのデフォルトに思えてこないでしょうか。



↑ジョビンのギタープレイに注目!

Ps.若い時のジョビンってとてもハンサムかつおしゃれですよね。才能豊かでハンサムでおしゃれときたら、きっとモテモテだったのではないでしょうか。履いている靴なんかも、ジョアン・ジルベルトと比べても格段にファッショナブル!そんなところもとっても好きなんですが、晩年太ってガラリと印象が変わってしまいました。
posted by ベーマイストレス at 00:34| Comment(0) | ブログ