2010年07月22日

ブラジル・ポルトガル語のカタカナ表記問題

bar bossa 林 伸次

 成田さんのブログを見たらこんなこと(下にスクロールして下さい)

が書いてありました。私も「ブラジル・ポルトガル語のカタカナ表記論争」に加わることほど不毛なことはないとずっと考えていたのですが、「頭のRをハ行で表記するのはキザ」という表現を読んで、「ああ、それはあまりにも貧しい発想だな」と思い、ペンをとりました(キーボードだけど…)。

 昔、バッカーナというシュラスコ・レストランで働いていたことがありました。そこで「ROSELY」という女の子がいたのですが、その子は自分の名前を「ホゼリー」と書いていました。なぜ彼女は自分の名前を「ロゼリー」と書かずに「ホゼリー」と書いていたのでしょうか。その辺をちょっと書いてみます。

 まずシュラスコ・レストランでの人種構成ですが、ブラジル人が約半分、うち日系ブラジル人が3割程度、残りの7割程度が純ブラジル人(彼らは「puro」と言ってましたが)、約半分の日本人は私のようなブラジルに興味ある人間が2割程度、残りの8割の日本人は学生やフリーター、およびそのレストランの親会社の社員で全くと言っていいほどブラジルには興味のない人でした。

 要するにそのレストランでほとんどのブラジル人が全く日本や日本語に興味もなく何らかの理由でお金のために日本で働いている、同じくほとんどの日本人もブラジル人の生活習慣や言葉なんかにも興味を持っていないという状況でした。

 そしてホゼリーの場合ですね。ホゼリーはイタリア系ブラジル人でサンパウロ出身、髪はブルーネットで身長は160センチくらいの日本人受けするタイプの可愛いブラジル人女性でした。彼女はサンパウロで知り合った日系ブラジル人男性と結婚して、その旦那さんが日本に出稼ぎで働きに来たのでついてきた、ということでした。

 彼女は英語は「one two three」と「I love you」しか知らないと言ってたので、おそらくそんなに上のクラスの出身ではないと思います。

 なんでこういうことを書いているかというと、彼女の状況を想像してほしいんです。ホゼリーは日本にちょっとの間住んで、お金が貯まったらすぐにブラジルに帰ろうと思っているんです。だから日本語なんて最低、レストランの注文をとるだけの言葉がわかればいいんです。ましてやひらがなやカタカナなんて全く覚えようとは思っていないんです。例えばあなたが配偶者や親の理由で半年だけ中東のどこかに滞在するとしますよね。で、そんなときアラビア文字ってたぶん勉強しませんよね(これを読んでいる人は「する」って言いそうですが…)。そういう状況なんです。

 たぶん、彼女が日本に来て初めて日本人に自分の名前を「ROSELY」と見せたとき、ほとんどの日本人が「ローズリー」って発音したと思うんです。で、これはまずいな、この国の人たちは私の名前を「ローズリー」って言っちゃうんだ、なんとかしてこの国の人たちの言葉で私の名前を表さなきゃと思ったと想像します。

 あるいは、何かの書類を提出するときにアルファベットではなく、カタカナで自分の名前を表記しなきゃいけないことがあったのかもしれません。

 まあそのきっかけはどちらでも良いのですが、彼女は自分の名前の日本語表記を必要として、まわりの日本人か、日本語が完璧な誰かに「私の名前を日本語で書いて」とお願いしたはずです。

 さて、そのお願いされた誰かはなぜ「ロゼリー」と書かずに「ホゼリー」と書いたのか。

 それは「ホゼリー」と表記すると、日本人は彼女の本来の名前に「一番近い発音」をしてくれるからなんです。

 あのー、彼女にとって日本語の表記なんてアラビア語の表記と同じなんです。「『R』は本来は『ラ行』で表記すべきで、ブラジル人の『R』の発音は〜」なんて理屈はしったこっちゃないんです。

 「ROSELY」と表記したら「ローズリー」と呼ばれるし、「ロゼリー」と書いたら「ロゼリー」って呼ばれちゃうんです。だったら「ホゼリー」と書いて「ホゼリー」と呼ばれるのが彼女にとっては一番心地良いんです。

 そしてそのバッカーナで働いていた他の日本人たちもブラジル・ポルトガル語の発音なんて全く興味ないんです。「『R』が一番頭にくれば〜」なんて理屈しったこっちゃないんです。「ローズリー」って呼んでも「ロゼリー」って呼んでも振り返らない彼女が「ホゼリー」って呼ぶと振り返ってくれるんです。

 だったらお互いのためにも「ホゼリー」って表記するのが一番なわけなんです。ですよね?

 というか、文字って本来、何かを「出来るだけ」正確に第3者に伝えるのを目的としているものですよね(もちろん何かが完璧に伝わることなんてありません)。

 現代の日本語のカタカナ文字なんてなおさら、耳から入ってきた「音」をそのまま「字」に移し変えるのが本来のお仕事ですよね。「ワンワン」とか「ドッカーン」とか「イギリス」とか…。私たちは犬の鳴き声を完璧に日本語文字に移し変えられたとは誰も思っていませんが、まあ「ワンワン」と聞こえるんだから「ワンワン」で良いじゃんと考えているわけです。

 そんな理由で「ホゼリー」と聞こえるから「ホゼリー」で良いじゃんというわけです。誰にも迷惑はかかっていないんだから…。そう、逆に「ロゼリー」にすると迷惑がかかるんです。

 しかし、これはあくまでも日本人とブラジル人が生でぶつかる現場の話です。そんな「現場の低い次元の話」と「言語学的に考えてどの表記が正しいか」というのを同じにしてもらっては困るという考えもじゅうぶんありだとは思います。そういう論争が好きな方はドンドンして下さい。

 しかし「ROSELY」を「ホゼリー」と書くことが「キザ」とか「間違いだ」とかって言われたら、あの時、あのバッカーナで働いていた全ての人間が「??????」となるのは間違いないなと思い、この文章を書いてみました。

 これはただの報告です。決して論争するつもりではないので、よろしくです。

追記:ちなみにバッカーナでは「L」は「ウ」で「E」は「イ」でした。要するに「ガウ・コスタ」で「カイターノ・ヴェローゾ」でした。だからバッカーナでは「カエターノ、髪型変えたの?」という冗談はなしで、「カイターノ、これ書いたの?」という冗談はありでした。あ、これも報告です。私の意見ではありません。


※ゴウさん、東野さん、というわけです。ゴウさん農業話、期待しております!
posted by ベーマイストレス at 12:43| Comment(0) | ブログ