2009年07月01日

美しきボサノヴァのミューズ

barquinho ヒガシノリュウイチロウ http://barquinho.biz/

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 前回「いかにしてボサノヴァ/ブラジル音楽にたどりついたか」ということで、そのきっかけとなったジョアン・ジルベルトのことを書きましたが、今回はボサノヴァ演奏を始めた頃にジョアンと同じくらい繰り返し聴いたナラ・レオンについて書いてみます。

 ボサノヴァ・ファンの間でナラ・レオンのイメージってどういうものでしょうか。「ボサノヴァのミューズで、大金持ちのお嬢さんで、そのお家の広々としたサロンでボサノヴァのセッションが開かれていた」という知識を持っている人は少なからずいるとは思いますが、実際にはあまりボサノヴァ・ファンの話題に上らない印象があります。「ジョアン最高!」「ジョビンは天才だ!」という声は頻繁に聞かれるのにナラ・レオンのことをじっくり語る人は極端に少ない気がするのです。今、手元に、昨年出された『Bossa Nova Guidebook 50-08』という冊子があります。ここでは35人の様々な分野で音楽にかかわっている方々がボサノヴァのおすすめアルバムを3枚ずつ選んでいますが、その中でナラ・レオンをあげているのはたった4人でした。(そのうち3人はbar bossaの林さん、カフェディモンシュの堀内さん、そして僕という超身内。)ちなみにジョアン・ジルベルトは25人、アントニオ・カルロス・ジョビンは9人。普段ブラジル音楽をかなりディープに聴いている人達の割合でこうですから、一般的にはさらにパーセンテージが低そうですね。

 確かにナラの歌声はアストラッド・ジルベルトやワンダ・サーのようにわかりやすい魅力に富んでいるわけではないし、ボサノヴァだけを歌ったアルバムも少ないです。さらに病気で早世してしまった(今年は没後20周年です)ことも、近年頻繁に来日しているジョアン・ジルベルト等とくらべて、語られる機会を少なくしている要因でしょうか。

 実際僕もナラの歌声が全てのジャンルの音楽ファンの心を鷲掴みにする魅力を持っていると思わないし(エリス・レジーナには確実にそれがある)、ボサノヴァ全盛時代に、なんでサンバやプロテスト・ソングなんて歌っていたのだろうというもどかしさもあります。しかし、やはりそれでもナラは最もボサノヴァの核心に近かった人だったと思うし、存在そのものがボサノヴァだったと思うのです。ナラはボサノヴァが本来持っていたラジカルな姿勢をくずさなかったゆえにボサノヴァから離れてしまったのですが、このあたりもナラのわかりにくさかもしれませんね。

 さて、ではナラの作品はどれから聴けば良いのでしょう。最初に書いたように僕はジョアン・ジルベルトを聴いた後に、ナラをよく聴いていたのですが作品的には『美しきボサノヴァのミューズ』と『イパネマの娘』という2枚のアルバムを繰り返し聴いていました。でも別にこれらを意識的に選んで聴いていたという訳ではなく、当時容易に手に入るアルバムの中でこの2枚が、ボサノヴァ・スタンダードを多く収録していて、曲を覚えるのに都合が良かったからという単純な理由からです。その後ナラのアルバムがいろいろ再発されてきましたが、それらを聴いた上でも、いまだにこの2枚を聴くことが多いし、初心者にすすめるならこの2枚が最高と思います。

 ボサノヴァ・スタンダードを多く含むこの2枚のアルバムですが、聴いてみるとその印象の違いに驚くと思います。まだ、60年代の喧騒がからだに残っていて、そこから完全に抜け切れていない71年パリ録音の『美しきボサノヴァのミューズ』が“陰”だとしたら、さらに年を重ね、「やはり自分はボサノヴァそのものなのだ」ということを再認識したかのようにボサノヴァの名曲を楽しげに歌う85年日本録音の『イパネマの娘』は“陽”と言えるでしょう。この“陰陽”2枚のアルバムを聴けば、主要なボサノヴァ・スタンダードを網羅することができるし、ナラ・レオンへの理解も深まると思うのです。両方に収められた「ワン・ノート・サンバ」「コルコヴァード」「イパネマの娘」「想いあふれて」「あなたと私」「デザフィナード」「メディテーション」を聴きくらべてみるのも楽しいかもしれません。(『イパネマの娘』は現在国内盤廃盤のようですが、ぜひ探してみてください)

 余談ですがつい最近(2009.6.17)『美しきボサノヴァのミューズ』がディモンシュの堀内さんの監修(言わずと知れたナラマニア)で、SHM-CD & 紙ジャケで再発されました。僕はこのCDを含めて3種類の『美しきボサノヴァのミューズ』を持っています。最初に買ったのはオリジナル全24曲から12曲を抜粋しナラの別のアルバム『五月の風』のジャケットイラストを流用したヴァージョンでした。所有してはいませんが、このヴァージョンと『エリス&トム』を2in1にしたCDもあったように思います。その後1998年にオリジナル2枚組の全曲を収めたCDが発売されたので嬉々としてそちらも購入し、ことあるごとにおすすめ文を書いていました。(『Bossa Nova Guidebook 50-08』にもこのアルバムをセレクトしました)そして最近紙ジャケの新しいヴァージョンを入手し聴いてみてびっくり! なんと、98年ヴァージョンと曲順が違うではありませんか。どうも98年のヴァージョンは2枚組の2枚目から始まっているようなのですね。これではアルバムの印象がかなり違う。もともとモノクロームな印象の静かなアルバムですが、超暗い「ポル・トーダ・ミーニャ・ヴィーダ」から始まることによってよりダークな印象になっていたと思います。僕はオリジナルLPを持っていないので98年のヴァージョンをオリジナルと思って聴いていたのですが、実は今回初めて「インセンサテス」から始まる“本当の”オリジナル・ヴァージョンを聴いたのですね。確かに「ヂマイス」で終わるこちらの方が、ストーリー性がナチュラルな気がします。

 また、解説も堀内さんが入魂の書き下ろしをされていますが、ここで重要な情報がひとつありました。今までギタリスト/シンガーのトゥッカがレコーディングに参加しているためギターはトウッカによるものと思われていましたが、どうもトウッカはキーボードを中心に弾いており、主要なギターはナラが弾いているということ。僕は昔からナラのギターが好きでこれぞボサノヴァ的バチーダ(右手の弾き方)だと思っていたので、今回この解説を読んでやはりそうだったのかと、合点がいきました。早めの曲では、ジョアン・ジルベルトが決してすることはないドゥルヴァル・フェヘイラ風バチーダがとても歯切れ良いし、スローな曲でもリズムの崩れることが無い安定した演奏を聴かせます。ジョアン・ジルベルトのバチーダは孤高で、コピーすることが困難ですが、ナラやカルロス・リラのバチーダは一般的ボサノヴァ・バチーダなので、誰もが習得しやすいものだと思います。ギター1本あればDIY的に演奏することができるのがボサノヴァの良さだとしたら、ナラのバチーダこそボサノヴァ的なのではないでしょうか。さあ、ギタリストのみなさんもナラのバチーダに注目してみてください。

※7月11日(土)Barquinhoはオープン1周年を迎えます。この日は20時オープンで、21時よりサブリナ&サンチェスとアルトゥール・ヴィタウのライヴを予定しています。(ノーチャージ!!)その他にも飛び入りライヴも考えていますので、ぜひ11日(土)はBarquinhoへ!!
posted by ベーマイストレス at 23:58| Comment(2) | ブログ
この記事へのコメント
こんにちわ〜
たまたまみつけました
こんどお店にお邪魔してみたいと思います。

そのさいはよろしくです☆
Posted by パーカッショニスト ねこけん at 2009年07月03日 23:24
ぜひお越しください。お待ちしております!
Posted by ヒガシノ at 2009年07月04日 11:05
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