2009年12月10日

天気予報

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barquinho ヒガシノリュウイチロウ http://barquinho.biz/

 先月ホベルト・メネスカルについて書いた時にちらっと触れましたが、今月はそろそろマルコス・ヴァーリについて書いてみようかな。正直、マルコス・ヴァーリは好きな作品が多すぎて何から書いたらいいかとても難しいのですが、やっぱり大好きなアルバム『プレヴィザォン・ド・テンポ』を中心に書いてみましょう。
 マルコス・ヴァーリの曲はボサノヴァを聴いていれば、必ず耳にしているはずで、僕もボサノヴァを聴き始めたばかりのころから大好きでした。ほんとにおしゃれな曲ばかり書くアーティストだなぁと思っていたし、歌声もジョアン・ジルベルトや、アントニオ・カルロス・ジョビンに比べるとポップで聴きやすかった。これは主に彼の初期の2枚や、アメリカ向けの『Samba68』のイメージですね。
 さて、僕がボサノヴァを聴き始めた頃はCDで入手できるマルコスのアルバムは限られていたので、それ以降のマルコスのアルバムで聴くことができたのはボンバからリリースされていた1981年の『ヴォンターヂ・ヂ・ヘヴェール・ヴォセ』くらいでした。このアルバムはマーヴィン・ゲイの『アイ・ウォント・ユー』の実質的作者リオン・ウエアやシカゴが参加したメロウ・ソウル・テイストのアルバムで、初めて聴いた時、初期の作品とのギャップに少し違和感があったことを覚えています。(『アイ・ウォント・ユー』は大好きだったのですが、当時はマルコスにボサノヴァを期待しすぎていたのですね)
 そしてその後少ししてからブラジルで再発されていたマルコスの『ムスタンギ・コル・ヂ・サンギ』『ガーハ』そして『プレヴィザォン・ド・テンポ』の3枚組ボックスを聴いた時には、『ヴォンターヂ・ヂ・ヘヴェール・ヴォセ』とは違う独特のサウンドに驚愕しました。特に『プレヴィザォン・ド・テンポ』に…。巷では「水中クンバカ・ジャケ」と呼ばれているこのアルバム。(呼ばれてないか?!…)そのジャケ写の奇妙さと同じくらいに内容もぶっとんでいて、これを聴かずにマルコスを語っていたということは『サージェント・ペパーズ』を聴かずにビートルズを語っていたようなものじゃないかと思うくらいに衝撃的なアルバムだったのです。
 なにがカッコいいって、アルバム全体を流れる70年代初期的なアナログサウンドが最高にカッコいいんです。そう、このアルバムが発表された1973年といえば、スティーヴィー・ワンダーが傑作『インナーヴィジョンズ』を発表した年。『プレヴィザォン・ド・テンポ』は『インナーヴィジョンズ』に呼応するようなエクスペリメンタルな響きで満ちています。特に12曲中9曲でバックを務めるアジムスのジョゼ・ホベルト・ベルトラミが弾くアープ・シンセサイザーとハモンド・オルガンのサウンドが秀逸。マルコス自身が弾くローズも気持ちいい!楽器の音質についてはこの時代だけに偶然作り得たものかもしれないけれど、その偶然さえもがこのアルバムを特別なものにしていると言えるでしょう。もちろんセンスのよいフレージングあってのものですが。
 ああ、好きなアルバムを語って止まらなくなってきたので、勢いで全曲解説を書いてしまいます。

1「フラメンゴ・アテ・モヘール」
リオの名門サッカークラブ“フラメンゴ”を讚えた応援歌。バックを務めるのはヴィニシウス・カントゥアリアが在籍したロック・グループ、オ・テルソ。ハモンド・オルガンとクイーカが同居するエレクリック・サンバ。ラフな女性コーラス隊も雰囲気を盛り上げます。

2「ネン・パリトー、ネン・グラヴァッタ」
どことなく「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のポールのパートを連想させるロックナンバー。ベルトラミのシンセがうなりはじめる。

3「チーラ・ア・マォン」
グニョグニョしたシンセと反復するリズムが脳髄をマッサージするようなサイケデリックなナンバー。ジャケ写の世界を表現しているよう。

4「メンチーラ」
ワウワウギターとホーン・セクションが心地よいファンキーなこの曲はクラブでも大人気。アジムスのタイトなリズムセクションにも注目。

5「プレヴィザォン・ド・テンポ」
アルバムタイトル曲であるインストゥルメンタル。意味は「天気予報」。悲しげなオーケストレーションに絡むゆれるエレピ、泣きのシンセが渋い。

6「マイス・ド・キ・ヴァルサ」
ファルセットのマルコスが歌う正統的なワルツ。しかし、そこにからむスペーシーなアープが普通の曲にはしておかない。どんどんこのアルバムのディープな世界に連れてゆかれる不思議な曲。

7「オス・オッソス・ド・バラォン」
ヴァルテル・ブランコがオーケストラを指揮する、アルバム中では最も正統的なポップナンバー。

8「ナォン・テン・ナーダ・ナォン」
デオダート、ジョアン・ドナートとの共作。ミディアム・テンポのファンキーなナンバー。1974年のタンバ・トリオの通称『ブラック・タンバ』でカヴァーされています。(このアルバムも『プレヴィザォン・ド・テンポ』と同様のムードを持った素晴らしい作品)

9「ナォン・テン・ナーダ・ナォン」
8のリプリーズ・インストゥルメンタル。シンセ・ソロがカッコいい。

10「サンバ・ファタル」
オ・テルソがバッキングを務めるマイナー・エレクトリック・サンバ。ディストーション・ギターが登場。

11「チウ・バ・ラ・キエバ」
言葉遊びのような淡々とした曲。美しいラスト前に置かれた小品の趣。

12「ヂ・ヘペンチ・モサ・フロール」
マルコスはファースト・アルバム『サンバ・ヂマイス』でドゥルヴァル・フェヘイラの「モサ・フロール」を歌っていますが、この「ヂ・ヘペンチ・モサ・フロール」はその続編のような曲でしょうか。とにかく“はかなげ”で美しく永遠に聴いていたい衝動に駆られます。エレピのバッキングと印象的なベース・サウンドが曲をひっぱり、時折ギターが少しだけアルペジオを添えるシンプルなバッキング。テンション・コードが美しいエレピのソロ、そしてフェイド・アウトするウネウネシンセがリスナーを天国に連れていく神曲でアルバムを終えます。

ということで『プレヴィザォン・ド・テンポ』を聴いた事無い人は絶対聴いてくださいね。もちろんリクエストがあればバルキーニョでもお聴かせいたします!
posted by ベーマイストレス at 05:02| Comment(0) | ブログ
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